555+ | おとうさんのおもちゃばこ

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結局…乾の記憶の糸はほつれ、大きく澄んだ瞳に写る自分の顔を見つめていた。
乾いた視線に耐えかねたのか彼女が口を開いた。
「真理…園田真理…覚えてる?」
流星塾の…。
ようやく手繰り寄せた思い出は海に落とした銀貨の様にキラキラ輝き…沈んでいったものだった。
飛行機事故で孤独の身となった巧。
火事で全てを失った真理。
流星塾はそんな子供達で溢れていた。
絶望の中…ゆっくりと差し込む希望の光。
温かい食事と毛布、そして人と人の関わり。
流星塾はその素晴らしさを示してくれた場所であった。
ただ巧はその性格から、あるいは経験から人間関係というものをマッチの炎の様なものと感じていた。
こすれ、一瞬燃え上がり、やがて消えていく。
すぐに消えてしまうものならば初めから深く関わらない方が良い。
是非はともかくそれが彼の考え方だった。
「あっ…あたしもう行かなきゃ」
ポーチからカードを取り出すと巧に押しつけた。
「じゃあ…またね」

軽くぎこちない微笑みを浮かべると真理は雑踏の中に飛び込み、その色に同化しやがて見えなくなった。
カードには英語と洒落たロゴで店名が書かれている。
美容院のようだ。
巧は少し伸びすぎた髪をなでるとカードをポケットにしまい、歩きはじめた。
やがて聞こえてきたギターの二重奏の音色が記憶の海から戻ってきた銀貨を磨いてくれているようで心地良く感じた。