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紺のGジャンを着た二人組が華麗な指先で奏でる弦は空気を震わせ、人々の心に響いた。
ソナチネ第3楽章「ハチスズメ」
黒いハンチングを目深に被った青年の激しくネックを滑る指先は機械仕掛けの様に五線譜の音符をなぞり、力強いビートを刻んでいく。
もう一人の少年は人形のように白く美しい透き通った肌を輝かせ、ステンドグラスに透かされた光の様な様々な音色を弾き、紡ぎ出していく。
巧はちらりとその美少年を見た。余りに凄まじい演奏技術の所為だろうか?
なぜか人間とは思えない。人々の拍手が彼らの演奏の終わりを告げる。
「うし!ジロー!次!いくか?」
ハンチングの男がニタリと笑って問いかける。
「はい!海堂さん」
ジローと呼ばれた少年がニコリと微笑んで答え、ジャッと弦を鳴らした。
再び空気が震え出すのを背中に感じながら巧は歩き始めた。
後に彼は知る。
それは戦慄の前奏曲だったと言うことを。